ぼくは名もないチビフサで、きれいな毛と立派な耳が自慢でしたが、 左耳は野良犬に食いちぎられ、右耳はモララーに万力で潰され、 耳の代わりに、三角にに切った画用紙をホッチキスでとめられ、 きれいだった毛はストレスで全部抜け落ち、最後に残った毛はモナーに引きちぎられ、 左目は熱した鉄の棒を押し付けられ、溶けてしまって右目はきれいにくりぬかれ、 鼻には鉄パイプが刺さったままで、歯はペンチで引っこ抜かれ、薬品で溶かされ、殴られて抜け落ち、すべてなくなり、 おなかにはナイフで刺された傷跡が今も残り、腰の辺りは肉が削げ落ちて骨があらわになっているけど、 性器は残っていて、針などが刺さって、姿かたちはわからなくても・・ 左前足はのこぎりで切られましたが、あの音が今も忘れられなく、夢を見るのが怖くてならないのがつらいけど、もっとつらかったのが、右前足のほうで、左目が残っているときに、子供に目の前でばらばらにされ、その日はずっと泣いてたし、 左後ろ足は怪我をしてそのままだったので、腐ったのはよいにしても、自分で足を切るのが怖かったのはありとあらゆる苦痛を味わったぼくにしても意外なことで、また、右のほうがまだ残っていたのがいつなくなるのか想像するのが怖かったけど、それも3日だけで、最後に残った右後ろ足はウォーミングアップとかいって、モララーにちぎられたのは最後に残っていた足なので、ずっと取っていましたが日に日に腐っていくのがつらかったですけど、もっとつらかったのは、痛みなんかではなく、動けない、何もできないことのほうが、よっぽど、つらいし、苦痛は、生きていることを実感できる唯一の感覚でしたから、しっぽよりはまだ、必要・・あ、しっぽ・・しっぽは・・・しっぽなんて覚えてないのはそんなものくらいなくなっても・・・ あ、そうです、ぼくが生きてきた中で、一度だけ快感というものを味わったときがあって あの時は、モナーがいきり立っていて、殺されるというのがわかり、 死は覚悟したつもりですが、三本の足が勝手に動き、脳は逃げることを命じ、体はそれに従いましたが、モナーは、ぼくが逃げるスピードをはるかに超えるスピードで追いかけるので、すぐにおいつかれ、 追いつかれた!と思ったとき、何かに躓いて、どぶにはまり、 そのまま流され、尻尾はいつの間にかちぎれてなくなったのですが、生き延びて、すごく、なにか、どきどきして、 それまで感じたことのない感情がわいてきたことがあるのが今、おもいだされるのは、それまで苦痛しか味わったことがない ぼくにとって、生きる助けになるのですが、もう時間はのこされていないので、あまり意味はないし、 もうじきやってくる冬の寒さに負けて死ぬか、飢え死にをするか、気分やのモナーに殺されるかを待っているぼくにとっては、 もっと、実利的な、たとえば、二日かん飲んでいない水が、雨として空から降ってくるとか、食べるための虫が口元に飛んでくるとかしてほしいけど、むしろ、虫たちは、僕がさっき吐いた血をすすっているようで、それもかなわないですが、本当に欲しいのは、去年は生きていた友だちのちびタンのように、冬支度をしてくれる友達がいるほうがもっと生きる助けになると、こんな状態になると、思いますが、そろそろ、運の尽きも感じ始め、ちょっと早口で、とめどなく、口から言葉がたくさん飛び出てくるのを、不快に思うのは申し訳ないと思いますが、このことを伝えたくて、がんばって、残り少ない体力を振り絞って、声に変えている僕の気持ちもわかってもらえたら、きっと、あなたにも、気づいてもらえると思います。

動物って不思議ですね。


どんなに苦しくっても、死にたくは、やはり、ないです。




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