740 名前:( ´∀`)さん 投稿日:03/04/08 18:26 ID:Rknar9PC
八、鳥を捕る人
(壱/九)
    _______________
    |______________|
    | /        // |  //     /  |  カタタン
    |          |           . |
    |_.   ∧∧    |     ∧,,∧ .」    ガタタン
   //!  (,, ゚Д) . |     ミД゚,, 彡\
  //  |ニ/,, ⊃二二二二二⊂ミ   ノ .\\   ∧_∧i
 ||||    |~て ) _)         (   ミ〜.  |||| (●Ж● ミ
 ||||  ./  (/ ∪______し ̄ \  |||| ⊂    つ ⌒ ⌒)⌒`〜、
 ||||/   /  ええ。      \    \|||| 丿___(     )   )
 |||| ̄ ̄||||              |||| ̄ ̄..||||  (__(_)ヽ __ノ__丿
────────────────────∧─┐
           ここへかけてもようございますか。 .|
──────────────────────┘
がさがさした、けれども親切そうな、大人の声が、二人のうしろで聞えました。
それは、茶いろの少しぼろぼろの外套を着て、白い巾でつつんだ荷物を、二つに分けて肩に掛けた、
赤髯のせなかのかがんだ人でした。
ずうっと前の方で、硝子の笛のようなものが鳴りました。汽車はもう、しずかにうごいていたのです。
赤ひげの人は、なにかなつかしそうにわらいながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ていました。

赤ひげの人が、少しおずおずしながら、二人に訊きました。
       ∧_∧i   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     (●Ж● ミ <あなた方は、どちらへいらっしゃるんですか。
      (つ  ⊂ )  \_________________
      |   (
      (__(_)

 
741 名前:( ´∀`)さん 投稿日:03/04/08 18:26 ID:Rknar9PC
(弐/九)
    _______________
    |______________|
    | /        // |  //     /  |  カタタン
    |          |           . |
    |_.   ∧∧    |     ∧,,∧ .」    ガタタン
   //!  (,, ゚Д) . |     ミД゚,, 彡\
  //∧_∧i ⊃二二二二二⊂ミ   ノ \\
 |||| ミ,, ●Д)          (   ミ〜  ||||
 |||| (  つ  ),,_______し ̄ \ .||||
 |||| t_   ⌒,)           \   \||||
 |||| ̄ ̄||||し'             |||| ̄ ̄.||||
─────────∧.┐
どこまでも行くんです。  |
────∧──────────────────────┐
それはいいね。この汽車は、じっさい、どこまででも行きますぜ。 .|
───────────────∧──────┐────┘
                あなたはどこへ行くんです。 |
──────────────────────┘
カムパネルラが、いきなり、喧嘩のようにたずねましたので、ジョバンニは、思わずわらいました。
ところがその人は別に怒ったでもなく、頬をぴくぴくしながら返事しました。

      ∧_∧i   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ミ●Ж●)<わっしはすぐそこで降ります。わっしは、鳥をつかまえる商売でね。
      ( つ   )  \_______________________
      t_   ⌒,)
         ̄し'

 
742 名前:( ´∀`)さん 投稿日:03/04/08 18:27 ID:Rknar9PC
(参/九)
    _______________
    |______________|
    | /        // |  //     /  |  カタタン
    |          |           . |
    |_.   ∧∧    |     ∧,,∧ .」    ガタタン
   //!  (,, ゚Д) . |     ミД゚,, 彡\
  //∧_∧i ⊃二二二二二⊂ミ   ノ \\
 |||| ミ,, ●Д)          (   ミ〜  ||||
 |||| (  つ  ),,_______し ̄ \ .||||
 |||| t_   ⌒,)           \   \||||
 |||| ̄ ̄||||し'             |||| ̄ ̄.||||
─────────∧.┐
      何鳥ですか。  |
────∧─────────┐
鶴や雁です。さぎも白鳥もです。  |
───────────────∧─────┐
                鶴はたくさんいますか。 |
──∧──────────────────┘────┐
居ますとも、さっきから鳴いてまさあ。聞かなかったのですか。 .|
─────────────────∧────────┘
                       いいえ。
──∧────────────────────────────┐
いまでも聞えるじゃありませんか。そら、耳をすまして聴いてごらんなさい。 .|
───────────────────────────────┘
二人は眼を挙げ、耳をすましました。ごとごと鳴る汽車のひびきと、すすきの風との間から、
ころんころんと水の湧くような音が聞えて来るのでした。


 
743 名前:( ´∀`)さん 投稿日:03/04/08 18:28 ID:Rknar9PC
(四/九)
    _______________
    |______________|
    | /        // |  //     /  |  カタタン
    |          |           . |
    |_.   ∧∧    |     ∧,,∧ .」    ガタタン
   //!  (,, ゚Д) . |     ミД゚,, 彡\
  //∧_∧i ⊃二二二二二⊂ミ   ノ \\
 |||| ミ,, ●Д)          (   ミ〜  ||||
 |||| (  つ )つ_______し ̄ \ ||||
 |||| t_   ⌒,)           \   \||||
 |||| ̄ ̄||||し'             |||| ̄ ̄.||||
─────────∧.─┐
鷺、どうしてとるんですか。 |
────∧──────────────────────────────────┐
そいつはな、雑作ない。さぎというものは、みんな天の川の砂が凝って、              .|
ぼおっとできるもんですからね、そして始終川へ帰りますからね、川原で待っていて、      ..|
鷺がみんな、脚をこういう風にして下りてくるところを、                         |
そいつが地べたへつくかつかないうちに、ぴたっと押えちまうんです。するともう鷺は、      |
かたまって安心して死んじまいます。あとはもう、わかり切ってまさあ。押し葉にするだけです。 |
───────────────∧─────┐─────────────────┘
鷺を押し葉にするんですか。標本ですか。      |
──∧──────────────────┘────┐
標本じゃありません。みんなたべるじゃありませんか。      |
─────────────────∧────────┘
                     おかしいねえ。
         カムパネルラが首をかしげました。
──∧─────────────┐
おかしいも不審もありませんや。そら。...|
────────────────┘
その男は立って、網棚から包みをおろして、手ばやくくるくると解きました。

      ∧_∧i   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ミ●Ж●)<さあ、ごらんなさい。いまとって来たばかりです。
      ( つ◇  )  \_______________________
      t_   ⌒,)
         ̄し'

 
750 名前:八、鳥を捕る人の五個目の繪繪に訂正があります。ご容赦。 投稿日:03/04/08 19:04 ID:Rknar9PC
(伍/九)
    _______________
    |______________|
    | /        // |  //     /  |  カタタン
    |          |           . |
    |_.   ∧∧    |     ∧,,∧ .」    ガタタン
   //!  (,, ゚Д) . |     ミД゚,, 彡\
  //∧_∧i ⊃二二二二二⊂ミ   ノ \\
 |||| ミ,, ●Д)          (   ミ〜  ||||
 |||| (  つ )つ◇.._____し ̄ \ ||||
 |||| t_   ⌒,)           \   \||||
 |||| ̄ ̄||||し'             |||| ̄ ̄.||||
─────────∧.─┐
ほんとうに鷺だねえ。    | 二人は思わず叫びました。
─────────────────∧─────┐
                     眼をつぶってるね。 .|
カムパネルラは、指でそっと、鷺の三日月がたの白い瞑った眼にさわりました。
頭の上の槍のような白い毛もちゃんとついていました。
──∧────────┐
ね、そうでしょう。      .|
────────∧──┘────┐
    鷺はおいしいんですか。。    .|
──∧─────────────┘──────────┐
ええ、毎日注文があります。しかし雁の方が、もっと売れます。  .|
雁の方がずっと柄がいいし、第一手数がありませんからな。そら。.|
───────────────────────────┘
鳥捕りは、また別の方の包みを解きました。
すると黄と青じろとまだらになって、なにかのあかりのようにひかる雁が、ちょうどさっきの鷺のように、
くちばしを揃えて、少し扁べったくなって、ならんでいました。

      ∧_∧i   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ミ●Ж●)<こっちはすぐ喰べられます。どうです、少しおあがりなさい。
      ( つ☆  )  \_______________________
      t_   ⌒,)
         ̄し'
 
745 名前:( ´∀`)さん 投稿日:03/04/08 18:31 ID:Rknar9PC
(六/九)
鳥捕りは、黄いろな雁の足を、軽くひっぱりました。するとそれは、
チョコレートででもできているように、すっときれいにはなれました。
ジョバンニは、ちょっと喰べてみて、(なんだ、やっぱりこいつはお菓子だ。
チョコレートよりも、もっとおいしいけれども、こんな雁が飛んでいるもんか。
この男は、どこかそこらの野原の菓子屋だ。けれどもぼくは、
このひとをばかにしながら、この人のお菓子をたべているのは、大へん気の毒だ。)
    _______________
    |______________|
    | /        // |  //     /  |  カタタン
    |          |           . |
    |_.   ∧∧    |     ∧,,∧ .」    ガタタン
   //!  (,,゚Д゚) . |     ミ゚Д゚,,彡\
  //∧_∧i ⊃☆二二二☆⊂ミ   ノ \\
 |||| ミ,, ●Д)          (   ミ〜  ||||
 |||| (  つ )つ..______し ̄ \ ||||
 |||| t_   ⌒,)           \   \||||
 |||| ̄ ̄||||し'             |||| ̄ ̄.||||
─────∧.─────┐
も少しおあがりなさい。   |
────────────∧────┐
              ええ、ありがとう。 |
ジョバンニは、もっとたべたかったのですけれども、遠慮しましたら、鳥捕りは、
こんどは向うの席の、鍵をもった人に出しました。
すすきがなくなったために、向うの野原から、ぱっとあかりが射して来ました。
──────────────────────∧────┐
                   鷺の方はなぜ手数なんですか。  .|
──────∧────────────────────┘────┐
それはね、鷺を喰べるには、天の川の水あかりに、十日もつるして置くかね、 |
そうでなけぁ、砂に三四日うずめなけぁいけないんだ。そうすると、        .|
水銀がみんな蒸発して、喰べられるようになるよ。                 |
───────────────────────∧────────┤
                    こいつは鳥じゃない。ただのお菓子でしょう。.|
────────────────────────────────┘
鳥捕りは、何か大へんあわてた風で、
「そうそう、ここで降りなけぁ。」と云いながら、立って荷物をとったと思うと、もう見えなくなっていました。

      ∧_∧i   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
      ミ●Ж●)<ここで降りなきゃいかん。
     ⊂(   と )  \_________
      t_   ⌒,)
         ̄し'

 
746 名前:( ´∀`)さん 投稿日:03/04/08 18:32 ID:Rknar9PC
(七/九)
    _______________
    |______________|
    | /        // |  //     /  |  カタタン
    |          |           . |
    |_.   ∧∧    |     ∧,,∧ .」    ガタタン
   //!  (,, ゚Д) . |     ミД゚,, 彡\
  //  |ニ/,, ⊃二二二二二⊂ミ   ノ \\
 ||||    |~て ) _)         (   ミ〜  ||||
 ||||  ./  (/ ∪______し ̄ \  ||||
 ||||/   /            \   \||||
 |||| ̄ ̄||||              |||| ̄ ̄..||||
───────────∧─────┐
         どこへ行ったんだろう。   |
─────────────────┘
二人は顔を見合せました。二人は窓の外をのぞきました。
たったいまの鳥捕りが、黄いろと青じろの、うつくしい燐光を出す、いちめんの
かわらははこぐさの上に立って、まじめな顔をして両手をひろげて、じっとそらを見ていたのです。
───────────∧─────────────────────┐
あすこへ行ってる。ずいぶん奇体だねえ。きっとまた鳥をつかまえるとこだねえ。 |
汽車が走って行かないうちに、早く鳥がおりるといいな。               |
─────────────────────────────────┘

 
747 名前:( ´∀`)さん 投稿日:03/04/08 18:33 ID:Rknar9PC
(八/九)
途端、がらんとした桔梗いろの空から、さっき見たような鷺が、まるで雪の降るように、
ぎゃあぎゃあ叫びながら、いっぱいに舞いおりて来ました。するとあの鳥捕りは、
すっかり注文通りだというようにほくほくして、両足をかっきり六十度に開いて立って、
鷺のちぢめて降りて来る黒い脚を両手で片っ端から押えて、布の袋の中に入れるのでした。
   , + ミ☆        ミ☆   ミ☆     ミ☆  ,   ミ☆
  ヾヽ         ヾヽヾヽ
  _( ・l>・l>     _( ・l>・l> + ミ☆   *    ミ☆     * ミ☆
 ミ_ノ_ノパタパタ  ミ_ノ_ノ  パタパタ
   |//        |// ミ☆     +    ミ☆
   |         /       ミ☆  +  ミ☆   ミ☆     *     ミ☆
   |        /
   |      /
   | ∧_∧∩   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ∩ミ ●w●) < そらきた。
  ヽ(    )/   \__________
  / /\\ゞ
 (__)  (_)


          *
  ヾヽ 
  _( ・l>・l>    ミ☆     * ミ☆
 ミ_ノ_ノパタパタ     *
   |//  ∧_∧i
   \ ミ ●Ж●)
    ヾ⊂    つ ⌒ ⌒ ⌒`〜、
      |   (         )
      (__)_)ヽ _ ___丿
すると鷺は、螢のように、袋の中でしばらく、青くぺかぺか光ったり消えたりしていましたが、
おしまいとうとう、みんなぼんやり白くなって、眼をつぶるのでした。
鳥捕りは二十疋ばかり、袋に入れてしまうと、急に両手をあげて、
兵隊が鉄砲弾にあたって、死ぬときのような形をしました。と思ったら、
もうそこに鳥捕りの形はなくなって、却って、


 
748 名前:( ´∀`)さん 投稿日:03/04/08 18:35 ID:Rknar9PC
(九/九)
    _______________
    |______________|
    | /        // |  //     /  |  カタタン
    |          |           . |
    |_.   ∧∧    |     ∧,,∧ .」    ガタタン
   //!  (,, ゚Д) . |     ミД゚,, 彡\
  //  |ニ/,, ⊃二二二二二⊂ミ   ノ .\\   ∧_∧i
 ||||    |~て ) _)         (   ミ〜.  |||| (●Ж● ミ
 ||||  ./  (/ ∪______し ̄ \  |||| ⊂    つ ⌒ ⌒)⌒`〜、
 ||||/   /            \    \|||| 丿___(     )   )
 |||| ̄ ̄||||              |||| ̄ ̄..||||  (__(_)ヽ __ノ__丿
────────────────────∧──────────────────┐
 ああせいせいした。どうもからだに恰度合うほど稼いでいるくらい、いいことはありませんな。 .|
───────────────────────────────────────┘
というききおぼえのある声が、ジョバンニの隣りにしました。見ると鳥捕りは、
もうそこでとって来た鷺を、きちんとそろえて、一つずつ重ね直しているのでした。
───∧──────────────────┐
どうしてあすこから、いっぺんにここへ来たんですか。 |
──────────────────────┴──∧────────────┐
どうしてって、来ようとしたから来たんです。ぜんたいあなた方は、どちらからおいでですか。 |
──────────────────────────────────────┘
ジョバンニは、すぐ返事しようと思いましたけれども、さあ、
ぜんたいどこから来たのか、もうどうしても考えつきませんでした。
       ∧_∧i   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     (●Ж● ミ <ああ、遠くからですね。
      (つ  ⊂ )  \_________________
      |   (
      (__(_)

 
inserted by FC2 system