- 24 :名無しのAA書きさん :04/04/17 01:11
- (壱/拾壱)
そのとき汽車はだんだん川からはなれて崖の上を通るようになりました。
そしてちらっと大きなとうもろこしの木を見ました。
,ミミYミミ,
ミ ,ミl ミ,ミ
ミミ_ | | ._
l゙ ヽ | | /_.\
_l ヾl |// ヽ)
/⌒\ ゙| |/ ((
( (⌒\\| | __
)) \| | /。_\
(、 ゙l | // ヽゝ
l |/ / ))
| |/ (、
その葉はぐるぐるに縮れ葉の下にはもう美しい緑いろの大きな苞《ほう》が
赤い毛を吐いて真珠のような実もちらっと見えたのでした。
- 25 :名無しのAA書きさん :04/04/17 01:11
- (弐/拾壱)
ノ⌒`'"~"'ヾ、,,..__ _ __
`'"~')、.,_,..、 - -ー'⌒'`^ `ゞ'"~
.,:;ソ.,_.._ _,.ゞ.,_,.ノ'"~"'(.,_,.ソ"~ '
人.,_,.(,._._;ノ'"
_ _,. .、-ー'"~⌒ヽ⌒';ζ ノ⌒ヾ`'"~`⌒'ゞ
~"'^(.,_,.ノ'"~`ヾ.,_ソ _ _,.,_,人⌒`'"~ (⌒'"~`'"~')、.,_,..、
~"`'ー- 'ヘ.,_,.ソ^ヽ.,'"~"' .,:;ソ.,_
(_,. 人.,_,.) ⌒):、,_
ヾ、.,__ソ^ソ'`"~⌒ 'ー- ー'
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それはだんだん数を増して来てもういまは列のように崖と線路との間にならび、思わずジョバンニが
窓から顔を引っ込めて向う側の窓を見ましたときは、美しいそらの野原の地平線のはてまで
大きなとうもろこしの木がほとんどいちめんに植えられてさやさや風にゆらぎ、
その立派なちぢれた葉のさきからは、まるでひるの間にいっぱい日光を吸った
金剛石《こんごうせき》のように露がいっぱいについて赤や緑やきらきら燃えて光っているのでした。
- 26 :名無しのAA書きさん :04/04/17 01:11
- (参/拾壱)
. 二二二二二\ /
∧∧| //
(,, ゚Д)
, ,,. /,,つと)
;:〜( ) )\\ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
∧,,∧ \\ < あれ、とうもろこしだねえ
ミ,,゚Д彡 \\ \___________
二二二二二二二二二\
カムパネルラが云いましたけれども、ジョバンニは
どうしても気持がなおりませんでしたから、ただぶっきり棒に野原を見たまま
/|
/ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ヽ
| そうだろう。 │と答えました。
\______/
- 27 :名無しのAA書きさん :04/04/17 01:12
- (四/拾壱)
そのとき汽車はだんだんしずかになっていくつかのシグナルとてんてつ器の灯を過ぎ
小さな停車場にとまりました。
\\//´⌒`ヽ// _ _,. .、-.._
`、{:{:: レ }/ ~"'^゙゙
ヽ、____.ノ
|| / ||
||○ .||
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.,,. .,. |:: | ,.,., , ..,. .,,. .,. .,,.
.,.. .,,,. .,. .,,. ,
''"''"''"''""''"''"|:: |""'"''"'""''"''"'"'"'"'
"""'"''"'""' '"''"''"'''"'" ''"''""'"''"'"'"''""'"''"'"''" "'"
''"''"''"''""''"''"|.. |'"''"'"'"'"'
"""'"''"'""' '"''"''"'''"'" ''"''""'"''"'"'"''""'"''"'"''""'"''""'"'"' "''"'"
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__________________.| |.____________________________..__________..______________________________________
| | |三三三三三三三三三三|
| | `┳━━━━━━━━┳
| | ┴ ┴
その正面の青じろい時計はかっきり第二時を示し、その振子は風もなくなり汽車もうごかず、
しずかなしずかな野原のなかにカチッカチッと正しく時を刻んで行くのでした。
- 28 :名無しのAA書きさん :04/04/17 01:12
- (伍/拾壱)
そしてまったくその振子の音のたえまを遠くの遠くの野原のはてから、かすかなかすかな旋律が
糸のように流れて来るのでした。
_______________
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| | |
|_ ∧∧ | ∧,,∧ 」
//! (,, ゚Д) | ミД゚,, 彡\
//,;;;;;;;;;;/,, ⊃二二二二二⊂ミ /ノノ∽、\
|||| (,,. -д) ) _) ( (゚*川 |||| / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|||| ( ∪<i,,(/∪______し-|l゚゙i__ゝ ||||< …新世界交響楽だわ
||||/ヽ-- J `(~/~ノ\|||| \_________
|||| ̄ ̄|||| UJ ̄ ̄||||
_ ____ _
/ ∩_∩ __|___,,,|__ \
//( ´ー`) (o- ) \\
|||| (,, つ )_ ({V} ) ||||
|||| /ゝ_ ) ) ( ( _ノ \ ||||
||||/ /__)__) (_(__\ \||||
|||| ̄ ̄|||| |||| ̄ ̄||||
姉がひとりごとのようにこっちを見ながらそっと云いました。
全くもう車の中ではあの黒服の丈高い青年も誰もみんなやさしい夢を見ているのでした。
- 29 :名無しのAA書きさん :04/04/17 01:12
- (陸/拾壱)
_ _,. .、-ー'"~⌒ヽ⌒';ζ ノ`'⌒'ゞ
~"'^`ー´'"~`″ ~"'^゙゙
,.,., , ..,. .,,. .,. .,,. .,..ili .,,,.il .,. .,,. ,
""'"''"'""''"''"'"'"'"'
"""'"''"'""' '"''"''"'''"'" ''"''""'"''"'"'"''""'"''"'"''""'"''""
∧∧
(゚∩ ,,)
二 ソ ,,ヽ二二二
o
γ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ O ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ ⌒ヽ
( こんなしずかないいとこで僕はどうしてもっと愉快になれないだろう。 )
( どうしてこんなにひとりさびしいのだろう。 )
( けれどもカムパネルラなんかあんまりひどい、僕といっしょに汽車に乗っていながら )
( まるであんな女の子とばかり談《はな》しているんだもの。僕はほんとうにつらい。 )
ゝ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,, ,,,,
ノ
ジョバンニはまた両手で顔を半分かくすようにして向うの窓のそとを見つめていました。
すきとおった硝子《がらす》のような笛が鳴って汽車はしずかに動き出し、カムパネルラもさびしそうに
星めぐりの口笛を吹きました。
- 30 :名無しのAA書きさん :04/04/17 01:13
- (七/拾壱)
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
| ええ、ええ、もうこの辺はひどい高原ですから。|
\_____________ _______/
|/
ィ三三三三三三三: :三三三三
,:/i───────;; ;:────
/| !!  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄[i [i ̄ ̄ ̄ ̄
/|||/it ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 「i 「i ̄ ̄ ̄ ̄
/ .||レ'('' '' | | | |
|| /||iT ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∧∧ ̄「i iT ̄ ̄ ̄ ̄
||/ ||| | (-m- ) | | | l
||/ ||| |,,.∧_∧,. < ヽ/ >,| | |.|,,. ,,. ,,. ,,. ,,.
|| /||iT ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄「i iT ̄ ̄ ̄ ̄
||/ ||| |,,. ,,. ,,. ,,. ,,..,. ,,. ,,. ,,. ,.| | |.|,,. ,,. ,,.
|| /.// ,,i i Li
||/ | |;;; ::: ;;; ::: ::;:; ::;:: ::;;:: :: ;;| | | |;;; ::: ;;; :::
| |' '' ' '' | | | |
うしろの方で誰かとしよりらしい人のいま眼がさめたという風ではきはき談している声がしました。
∧
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽ
| とうもろこしだって棒で二尺も孔をあけておいて |
| そこへ播かないと生えないんです。 |
\____________________/
/  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽ
| そうですか。川まではよほどありましょうかねえ、 |
\____________________/
- 31 :名無しのAA書きさん :04/04/17 01:13
- (八/拾壱)
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽ
| ええええ河までは二千尺から六千尺あります。 |
| もうまるでひどい峡谷になっているんです。 |
\___________________/
丶 /二二二二二二二二'i
丶 | ∧,,∧ /ノノ∽
丶 | ミД゚,, 彡 (゚ー゚*川
|⊂ミ とミ .,, ,<_l゚゙i__ゝ
// (~',,( ,,ミ〜:; (~/~ノ ,,
/ ∧∧ し'∪ UJ
//(Д゚ ,,)
/二二二二二二二二二二
そうそうここはコロラドの高原じゃなかったろうか、ジョバンニは思わずそう思いました。
カムパネルラはまださびしそうにひとり口笛を吹き、女の子はまるで絹で包んだ
苹果《りんご》のような顔いろをしてジョバンニの見る方を見ているのでした。
- 32 :名無しのAA書きさん :04/04/17 01:13
- (九/拾壱)
丶 /二二二二二二二二'i
丶 | ∧,,∧ ∽ヾヽ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
丶 | ミ,,゚Д゚ 彡 川*゚ヮ゚) < あら、インデアンですよ。インデアンですよ。ごらんなさい。
|⊂ミ とミ .,, ,<__/゚l_j \________________________
// (~',,( ,,ミ〜:; (~/~ノ ,,
/ ∧∧ し'∪ UJ
//(,, ゚Д)
/二二二二二二二二二二
黒服の青年も眼をさましました。ジョバンニもカムパネルラも立ちあがりました。
_______________
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| / // | // / |
| | |
|_ ∧∧ | ∧,,∧ _」
//! (゚Д゚,,) | ミ ゚Д゚,,彡 i\\
//,;;;;;;;;;;,(, ,,)二二ニ.(ミ ミ)二| \\ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
|||| (,,. -д) | /ノノ∽ ミ ミ___| |||| < 走って来るわ、あら、走って来るわ。 |
|||| ( ∪<i,,_し`J (゚ヮ゚*川し'`J、 \ |||| | 追いかけているんでしょう。 |
||||/ヽ-- J <_l゚゙i__ゝ \ \|||| \_______________/
|||| ̄ ̄|||| /~|゚~~ゝ |||| ̄ ̄||||
_ UU ____ _
/ ∩_∩ __|___,,,|__ |\\
//( ´ー`) (o-o・ ) | \\
|||| (,, つ )_ ( {V} )__ | ||||
|||| /ゝ_ ) ) | | | \ \ ||||
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|||| ̄ ̄|||| ∧ |||| ̄ ̄||||
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
| いいえ、汽車を追ってるんじゃないんですよ。|
| 猟をするか踊るかしてるんですよ。 |
\___________________/
- 33 :名無しのAA書きさん :04/04/17 01:14
- (拾/拾壱)
シ、,、
ツ(´jコ) まったくインデアンは半分は踊っているようでした。
ツ―.' '--、 n 第一かけるにしても足のふみようがもっと経済もとれ
//7 /\ン 本気にもなれそうでした。
,'ジ〉ーー`--、
ツ/ ノ ̄フ__!
,ヽ/ レ'
レ'
,m、
/ l l \
くシ ),l l_-‐' にわかにくっきり白いその羽根は前の方へ倒れるようになり
∠ツツ` l インデアンはぴたっと立ちどまってすばやく弓を空にひきました。
シツ !
〉シツ、
/ ハ !
/__/ |__|
` ┘ └┘ ,、 ツ
(;) ヲ;;ヾ
〈〈ッ;;::;ソ
シ、,、 シ´;ソ そこから一羽の鶴がふらふらと落ちて来て
(^; ツ(´jコ) また走り出したインデアンの大きくひろげた
ヽヽ―.' '-‐‐‐‐´) 両手に落ちこみました。
シ ̄7 / ̄ ̄~ インデアンはうれしそうに立ってわらいました。
ヲ 〈__-゙-、
/ ゙7___!
/__/ レ'
` ┘
そしてその鶴をもってこっちを見ている影ももうどんどん小さく遠くなり
電しんばしらの碍子がきらっきらっと続いて二つばかり光ってまた
とうもろこしの林になってしまいました。
- 34 :名無しのAA書きさん :04/04/17 01:14
- (拾壱/拾壱)
\__
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〈 ノ |::::j\ \ ゞ:::::::.... :::....,,,,
;;ヽソ::::.〉 l .|""''--=_ \
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l:: Y:: ::l;;:::i,,;;::::i;; l:: Y:: ::l;;:: l;::
;;::i..:::;;人,, ,,i:: ト、,, ,,;;:i;;::i..:::;;人,, ,,i:: ト、,, ,,;;:i;;::i..:::;;人,,
,,i:: ト、,, ,,;;:i;;::i..:::;;人,, ,,i:: ト、,, ,,;;:i リ;;:::
:::;;人,, ,, :: ト、,, ,,;;:i;;::i..:::;;人;;,, ,,i:: ト、,, ,,;;:i;;::i..:::;;人,,
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こっち側の窓を見ますと汽車はほんとうに高い高い崖の上を走っていて
その谷の底には川がやっぱり幅ひろく明るく流れていたのです。