- 748 名前:( ´∀`)さん
投稿日:04/01/29 19:14 ID:JIpqPhci
- こんな夢を見た。
腕組をして枕元に坐つてゐると、仰向に寢た女が、靜かな聲でもう死にますと云ふ。
女は長い髮を枕に敷いて、輪廓の柔らかな瓜實顏をその中に横たへてゐる。
眞白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、脣の色は無論赤い。
とうてい死にさうには見えない。
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しかし女は靜かな聲で、もう死にますと判然云つた。自分も確にこれは死ぬなと思つた。
そこで、さうかね、もう死ぬのかね、と上から覗き込むやうにして聞いて見た。
死にますとも、と云ひながら、女はぱつちりと眼を開けた。
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大きな潤のある眼で、長い睫に包まれた中は、たゞ一面に眞黒であつた。
その眞黒な眸の奧に、自分の姿が鮮に浮かんでゐる。
- 749 名前:( ´∀`)さん
投稿日:04/01/29 19:15 ID:JIpqPhci
- 自分は透き徹るほど深く見えるこの黒眼の色澤を眺めて、これでも死ぬのかと思つた。
それで、ねんごろに枕の傍へ口を付けて、死ぬんぢやなからうね、大丈夫だらうね、とまた聞き返した。
すると女は黒い眼を眠さうに瞠つたまゝ、やつぱり靜かな聲で、でも、死ぬんですもの、
仕方がないわと云つた。
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ぢや、私の顏が見えるかいと一心に聞くと、見えるかいつて、そら、そこに、寫つてるぢやありませんかと、
にこりと笑つて見せた。
自分は默つて、顏を枕から離した。腕組をしながら、どうしても死ぬのかなと思つた。
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- 750 名前:( ´∀`)さん
投稿日:04/01/29 19:16 ID:JIpqPhci
- しばらくして、女がまたかう云つた。
「死んだら、埋めて下さい。大きな眞珠貝で穴を掘つて。さうして天から落ちて來る星の破片を
墓標に置いて下さい。さうして墓の傍に待つてゐて下さい。また逢ひに來ますから」
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自分は、いつ逢ひに來るかねと聞いた。
「日が出るでせう。それから日が沈むでせう。それからまた出るでせう、さうしてまた沈むでせう。
――赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、――あなた、待つていられますか」
自分は默つて首肯ひた。女は靜かな調子を一段張り上げて、
「百年待つてゐて下さい」と思ひ切つた聲で云つた。
「百年、私の墓の傍に坐つて待つてゐて下さい。きつと逢ひに來ますから」
- 751 名前:( ´∀`)さん
投稿日:04/01/29 19:17 ID:JIpqPhci
- 自分はたゞ待つてゐると答へた。すると、黒い眸のなかに鮮に見えた自分の姿が、
ぼうつと崩れて來た。靜かな水が動いて寫る影を亂したやうに、流れ出したと思つたら、女の眼が
ぱちりと閉ぢた。長い睫の間から涙が頬へ埀れた。――もう死んでゐた。
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- 752 名前:( ´∀`)さん
投稿日:04/01/29 19:18 ID:JIpqPhci
- 自分はそれから庭へ下りて、眞珠貝で穴を掘つた。眞珠貝は大きな滑かな縁の鋭どい貝であつた。
土をすくふたびに、貝の裏に月の光が差してきら/\した。濕つた土の匂もした。
穴はしばらくして掘れた。女をその中に入れた。さうして柔らかい土を、上からそつと掛けた。
掛けるたびに眞珠貝の裏に月の光が差した。
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それから星の破片の落ちたのを拾つて來て、かろく土の上へ乘せた。星の破片は丸かつた。
長い間大空を落ちてゐる間に、角が取れて滑かになつたんだらうと思つた。抱き上げて土の上へ
置くうちに、自分の胸と手が少し暖くなつた。
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- 753 名前:( ´∀`)さん
投稿日:04/01/29 19:19 ID:JIpqPhci
- 自分は苔の上に坐つた。これから百年の間かうして待つてゐるんだなと考へながら、腕組をして、
丸い墓石を眺めてゐた。そのうちに、女の云つた通り日が東から出た。大きな赤い日であつた。
それがまた女の云つた通り、やがて西へ落ちた。赤いまんまでのつと落ちて行つた。
一つと自分は勘定した。
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しばらくするとまた唐紅の天道がのそりと上つて來た。さうして默つて沈んでしまつた。
二つとまた勘定した。
- 754 名前:( ´∀`)さん
投稿日:04/01/29 19:20 ID:JIpqPhci
- 自分はかう云ふ風に一つ二つと勘定して行くうちに、赤い日をいくつ見たか分らない。
勘定しても、勘定しても、しつくせないほど赤い日が頭の上を通り越して行つた。
それでも百年がまだ來ない。しまひには、苔の生えた丸い石を眺めて、自分は女に欺されたのでは
なからうかと思ひ出した。
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- 755 名前:( ´∀`)さん
投稿日:04/01/29 19:21 ID:JIpqPhci
- すると石の下から斜に自分の方へ向いて青い莖が伸びて來た。見る間に長くなつてちやうど
自分の胸のあたりまで來て留まつた。と思ふと、すらりと搖ぐ莖の頂に、心持首を傾けてゐた
細長い一輪の蕾が、ふつくらと弁を開た。眞白な百合が鼻の先で骨に徹えるほど匂つた。
そこへ遙の上から、ぽたりと露が落ちたので、花は自分の重みでふら/\と動いた。
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自分は首を前へ出して冷たい露の滴る、白い花瓣に接吻した。自分が百合から顏を離す拍子に
思はず、遠い空を見たら、曉の星がたつた一つ瞬いてゐた。
「百年はもう來てゐたんだな」とこの時始めて氣がついた。
- 756 名前:( ´∀`)さん
投稿日:04/01/29 19:22 ID:JIpqPhci
- 原作 夏目漱石「夢十夜」第一夜
尚、貳段目で使はれてをります「瞠」の字は、原文では違ふ字になつてをります
(『淨』のさんずいがめへんになつてゐる字)
該當する字が見つからず、ひらがなでは雰圍氣が出ないやうに感じられたので
あへて置き換へて使用致しました
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(,,゚Д゚)、_
∩ソ,,ハ⌒)つ
拙き繪々にてお目汚し失禮致しました