素足に駒下駄を穿いた父の姿が何よりも先に眼に浮かぶ。その父は
頭の毛をクシャクシャにして、黑い關羽鬚（かんうひげ）を渦巻かせていた。
ゞξζ
ミﾟДﾟミ
く,_i y;__,ゝ
ﾊﾊﾊゞ
台 台 、、、、 ｶﾗｶﾗ
父は六歳になつた筆者を背中に乘せて水泳を試み、那珂川の洲口を
泳ぎ渡つて向うの石の突堤に取着き、直ぐに引返して又モトの砂濱に
上つた。滅多に父の背中に負ぶさつた事なぞない私はタマラなく嬉しかつた。
～～ ﾊﾞｼｬﾊﾞｼｬｯ
～～～～～ ～～～～～ ～～～～～ ～～～～～
～～～ ﾊﾟｼｬｯ ゞξζ ∧,,∧ ｷｬｯｷｬｯ ～～ ～～ ～～～
～ ～ ～ ヽW/ ミﾟДﾟ∩(^д^) ﾟ～ ～～ ～～～～～ ～～～～～
～～～ ～～⊆ . ヾ⊂ ゝ～～～ ～～ ～～～
～～ ～ ""～ ～""" ～～～ ～～～～～ ～～～～～
～～～～～ ～～～～～ ～ ～～ ～～～～ ～～～～～ ～～～～
右の背筋の横へ二ツ竝んで、小さな無果花色の疣が在つた。左の肩へ
離れて一ツ在るのが一番大きかつたが、その一つ一つに一本宛、
長い毛がチリチリと曲つて生えてゐるのが大變に珍らしかつたので、
陸に上つてから繰返し繰返し引つぱつた。
「痛いぞ痛いぞ。ウフフフ……」と父が笑つた。
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ゞξζ∧,∧ ｲﾎﾞｲﾎﾞ , /￣￣/ ,,,
痛いぞ ｳﾌﾌ ﾐ；^Дﾟﾐ^д^) ｵｹｹ… /￣￣/
,,,, ⊂ ' '((⊂ ヾ ,,,,, /￣￣/
ヽ_┳ゝ(/(/ ,,,,, /￣￣/
(/ (/ ,,,, /￣￣/
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彡 彡彡 彡 彡 彡 彡 彡 お祖父樣の夜網打ちの艫櫓を押したといふから、
相當水泳が上手であつたらしい。
"""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""""" 那珂川の洲口といへば、
～～～～～ ～～～～～ ～ ～～ ～～～～ ～～～～ 今でも海水、河水の交會する、
～～～～～ 参、～～～～～ 弐、～～～ 壱、～～～ 三角波の重疊した難コォスで、
～～ ﾊﾟｼｬｯ ゞξζ ゞξζ ゞξζ゜。～ 岸の上から見てもゾッとするのに、
～ ～ ～ ヽW/ ミﾟДﾟ∩ ～ ミ ミ∩ )) ミﾟДﾟ;;ﾐ ～～～ 負ぶさつてる私は怖くも
～～～～ と . ヾ (( と . ヾ (( と . つ )) ～～ 何とも感じなかつた。
～～ ～～～ ''~''~''~'～ ～'~''~''~'~～～～'~''~''~''~ ～ ～～～
～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～～
些くとも父の肩から上と私の背中だけは水面上に出ていたと思ふ。
～～～～～ ﾊﾞｼｬﾊﾞｼｬｯ ～～～～～ ～～～～
～～～～～ ～～～～～ ～～～～～ ～～～～～
～～～ﾊﾟｼｬｯ ゞξζ∧∧ 顔ﾆ水ｶﾞ… ～～ ～～ ～～～
～ ～ ～ ヽW/ ミﾟДﾟ(>д<)゜゜゜ﾟ～ ～～ ～～～～～ ～～～～～
～～～ ⊆ . ヾ⊂ ゝ～～～ ～～ ～～～ ～～ ～～～～
～～ ～ ""～ ～""" ～～～ ～～～～～ ～～～～～
～～～～～ ～～～～～ ～～～ ～～～～～ ～～～～
テニスに夢中になつた。明らかに當時のモボ兼、文學靑年となつてしまつた。
その十六歳の時、久し振りに歸省した父から將來の目的を問はれて、
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私は文學で立ちたいと思ひます
￣￣￣∨￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
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(,,ﾟдﾟ) ミ-Д-#ミ ┃〇──‐
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し;|＿)_) ┃│││┃ ( /つ; ;) ┃＃＃＃
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と答へた時の父の不愉快さうな顔を今でも忘れない。、
あんまりイヤな顔をして默つていたので私はタマラなくなつて
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そんなら美術家になります
￣￣￣∨￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
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(；ﾟдﾟ) ミﾟДﾟ#;ミ ┃〇──‐
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し;|＿)_) ┃│││┃ ( /つ; ;) ┃＃＃＃
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と云つたら父がイヨイヨ不愉快な顔になつて私の顔をヂイッと
見たのでこつちもイヨイヨたまらなくなつてしまつた。
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そんなら身體を丈夫にするために農業をやります
￣￣￣∨￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
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(；ﾟДﾟ) (( ミ＾Д＾,ミ ┃〇──‐
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し;|＿)_) ┃│││┃ ( /つ; ;) ┃＃＃＃
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と云つたら父の顔が忽ち解けて、見る見るニコニコと
笑ひ出したので、私はホッとしたものであつた。
フン。農業なら賛成する。何故かといふと貴樣は現在、神經過敏の固まり
みたやうになつてゐる。先刻から俺の顔色を見て、ヤタラに目的を變更して
ゐるやうであるが、そんなダラシのない神經過敏では、今の生存競爭の
世の中に當つて勝てるものでない。藝術とか、宗敎とかいふものは神經過敏の
オモチャみたやうなもので、そんなものに熱中するとイヨイヨ神經過敏になつて、
人閒萬事が腹が立つたり、悲しくなつたりするものだ。その神經過敏は農業でも
やつて身體を壯健にすれば自から解消するものだ。だから萬事はその上で考へて
見る事にせよ。現在の日本は露西亞に取られやうとしてゐる。日本が亡びたら
文學も繪もあつたものでない。そのサ中に早く歸つて頂戴なナンテ呑氣な事が
云つておられるか。雪舟の虎の繪を見せても、露西亞兵は退却しやしないぞ
￣￣￣∨￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
ゞξζ
ミﾟДﾟミ
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(； ) といつたやうな事を長々と訓戒してくれた。
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し;|＿)_) ┃│││┃ ( /つ; ;) ┃＃＃＃
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私は父の熱誠に壓伏されながらも、生涯の樂しみを奪われた悲しさに
涙をポトポトと落しながら聞いていた。
七月十九日の午前十時二十二分に三年町の自宅自室で父が七十二歳の
息を引取つた時、私は脱脂綿を巻いた箸と、水を容れたコップの盆を兩手に
支えて、枕頭に集まつていた數十名の人々に捧げ、父の唇を濡らしてもらつたが、
私は金城鐵壁泣かないつもりで、故意に冷然と構へていた。この際、つまらない
顔をして見せるのは、他人樣の迷惑であるとさへ考へていた。
∧∧
(ﾟДﾟ,,)Ц
<___/;つっ 先生～
⊆;|＿)_) 無念… 眞に漢たる逝樣よ…
∧＿∧ ∧＿∧ ∧＿∧
ゞξζ (TДT,,) （；∀； ） （-∀- ）
/ミ-o-;ミ/⊂/ ヽ⊂[_ ｙ _ﾉ [_ ｙ_ﾉ
/￣￣￣￣ （⊂|＿） ((ﾉﾉﾉ|つ) ((ﾉﾉﾊ|⊃)
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/￣￣￣￣/ / ∪
情なささうな顔をするのを押し切つて、その通りに決行した。その前に父の
デスマスクを齋藤といふ人が取つて下すつたが、そのデスマスクを取る直前の
父の顔は實に滿足さうな……生前に見たドノ顔よりも氣高い、懷しい微笑を含んでいた。
_ ゞξζ 作業を終へました。だうぞ。
ゞξζ ||ヽミ-∀-,,ゞ
/￣ミ-∀-,,ゞ￣ヽ ヽ┌─┐ ∧＠∧ ∧∧ ……
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||ヽ ヽ （ヽΩ/ ） 〈 ]ﾆ[ 〉
||ヽヽ||'⌒⌒⌒⌒⌒⌒|| | | | |_|~~|_|ゝ
ヽ||.＿＿＿＿＿＿|| （＿(＿) ∪∪
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(,,；Д；) さてはこれが父のホントウの顔であつたかナと思ふと、
⊂/_ y_ﾉﾉつ 又タマラなくなりさうになつたので
（__-､ﾉ 慌てて湯殿に行つて顔を洗つた。
ﾀﾞｯ / _ハ;;っ
== |ﾉ
父が生前に社會の父であつたかドウか私は知らない。
けれども生前の父をこれ程までに思つて、葬式までして
Λ Λ 下すつた世閒の方々が、今からは疑いもなく私の父の
(-Д-,,) 死後の父になつて下すつた譯である。
<φy > あらゆる意味に於て不肖の子である私は、父の生前に
┳┯┯┯┯┯┳ 思はしい孝行を盡し得なかつた。これからは
┃│││││┃ 父の死後の父に、心の限り孝行をして行きたい。
￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣￣
|| ||
|| 夢野久作
|| 「父杉山茂丸を語る」 ∩_∩
|| 概略 ＼ （・◇・）
||＿＿＿＿＿＿＿＿＿ ⊂...V..i,＞
┗┛ / | |
￣￣
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怪書『ドグラ・マグラ』を書いた作者とは思へないぐらい亦在した
囘想録をだうぞ。彼の父、杉山茂丸は當時の大物右翼運動家です。
息子に對して無骨な接し方ながら、愛情を感じます。いかにも
明治の父といつた感じです。