633 名前:春光山陽特別阿房列車 投稿日:01/11/13 22:10 ID:Urmf4McF
 貴君、僕は仮名遣いの問題とちがって、左書き右書きをそう窮屈に
考えていないよ。決して右書き論者と云うわけではない。第一、僕自身
学生の当時からノートはすべて左書きにしている。外国語のまじらない、
国文学のノートでもみんな左書きだ。縦に書いていた友達もいたけれど、
そんなのは例外で、誰だって、みんな左書きで、それが普通で当たり前だ。
∧ ∧
( ゚Д゚)
/ y~|⊃

 
634 名前:春光山陽特別阿房列車 投稿日:01/11/13 22:11 ID:Urmf4McF
 しかし僕の本の表紙や扉の問題になると、話しが違う。そう云う
箇所の左書きは、僕はそれでいいと云う気になれない。ところが今は大体
みんな左書きだから、それを無理に右書きにすると、見る人の目に抵抗感を
与える結果になる。僕は自分の所見を譲歩するのはいやだし、人に見せる
為の物を、人に見にくくするのも無意味な意地だから、成る可く横書きを
避けて、縦に書いて、そう云う問題に触れない様にする。しかし表紙や
扉には装釘意匠の問題もあって、その方の制限で縦には書けない場合がある。
そう云う時は必ず右書きにする様、僕は固執する。
∧ ∧
( ゚Д゚)
/ y~|⊃

 
635 名前:春光山陽特別阿房列車 投稿日:01/11/13 22:11 ID:Urmf4McF
 今の事は知らないが、僕が日本郵船にいた当時まで、郵船の船は舳先の
舷側に書いてある船の名前が、みんな右書きであった。とこがそれが両側に
あるから、一方は船の進行に合っているが、一方は必ず逆になる。逆に
なった方を左書きにすれば、両舷共進行方向に合ってよみ易いだろうと思った。
しかしその日本字の船名の下に、羅馬字が書き添えてある。船の進行方向の
如何に拘らず、羅馬字を右書きにするのは困難である。そうだろう貴君、
だからそう云うわけなのだ。
∧ ∧
( ゚Д゚)
/ y~|⊃

 
636 名前:春光山陽特別阿房列車 投稿日:01/11/13 22:12 ID:Urmf4McF
 門司の管理局に機関紙がありまして、大分前の話ですが、その創刊の時、
表紙の題字を右書きにするか、左書きにするかで、大層揉めました。汽笛と
云う名前なのです。表紙の意匠に合わして、それを仮名で書こうと云うの
ですが、議論が二派に岐れて、両方とも譲らないから、大分上の方まで
持ち出して争うと云う様な事になりました
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         Λ_Λ
        (´∀` )ハァ
        <  y ____ >
     _/⌒ ⌒ ノ___
      (_(__) |_|
  ∧ ∧
  ( ゚Д゚)
  / y~|⊃
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それで上の方はどう決裁したのだ

 
637 名前:春光山陽特別阿房列車 投稿日:01/11/13 22:13 ID:Urmf4McF
雑誌が出来て見たら、汽笛は仮名で書けば、右から読んでも、左から読んでも、
同じ事でした
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         Λ_Λ
        (´∀` )
        <  y ____ >
     _/⌒ ⌒ ノ___
      (_(__) |_|
∧ ∧
( ゚Д゚) !
/ y~|⊃

 山系に一杯食わされてぼうっとしている窓外に、暮色が迫って来た。
時時窓硝子に雨の玉がぶつかって、筋を引いて流れた。

 
638 名前:春光山陽特別阿房列車 投稿日:01/11/13 22:17 ID:Urmf4McF
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 ||                ||
 || 内田百
 || 春光山陽特別阿房列車   ∩_∩
 || 「右書き左書き」    \ (・◇・)
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                  ̄ ̄
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 前作に続いて福武文庫からの転載です。
 戦後の新仮名遣いの移行期の壱挿話と云ふことで。

 
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